
顧客視点についての「間違い」への気づき
ビジネスの世界では、耳にタコができるほど「顧客視点」や「ユーザーファースト」という言葉が叫ばれています。私たちWeb制作会社も、当然のようにその重要性を語ってきました。
しかし、恥ずかしながらある時、気づいてしまったのです。
これまで私たちが考えていた「顧客視点」は、実は「利己視点」でしかなかったのではないか、と。
たとえば、私たちはコンテンツを作る時、プロとして様々なマーケティング手法を使います。
「ユーザーはこういう心理だから、ここで背中を押してあげよう」
「ユーザーが迷わないように、ここに導線を置こう」
これらの「分析」や「設計」自体は、決して間違っていません。むしろ必要なことです。 しかし、問題はその「目的」がどこにあったかです。
その手法を、相手が本当に望む場所へ導くための「地図(ガイド)」として使っていたか。 それとも、自社の売上というゴールへ誘導するための「操作(コントロール)」として使っていたか。
もし、「そもそも、これが本当に相手にとって最善の策だろうか?」という問いを持たず、ただひたすらに「どうすれば契約してもらえるか」という一心でテクニックを使っていたなら、それは「顧客視点」の皮を被った「利己視点」です。
文脈上の主語は「ユーザー」になっていても、心の矢印は「自分の利益」に向いていたのです。
そして、そんなノウハウや情報が巷にあふれています。
今日は、自戒を込めて、本当の意味での「顧客視点」とは何かについて書いてみたいと思います。
「矢印」はどっちを向いているか?
利己的な視点と、本当の顧客視点(利他視点)。その決定的な違いは、心の「矢印」の向きにあります。
- 偽の顧客視点(利己)矢印は「自分」に向いています。「(私が売上を上げるために)あなたは何を求めているの?」と聞いています。これはマーケティングという名の「時間、注目、お金を奪う(テイク)」行為です。
- 真の顧客視点(利他)矢印は「相手」に向いています。「(あなたの成功のために)私ができることは何か?」と考えています。これはビジネスという枠を超えた「知識、安心、勇気を与える(ギブ)」行為です。
もし、Webサイトやコンテンツを作る時、「これを書いたら競合に逃げられるかもしれない」とか「タダで教えるのは惜しい」という感情が湧くなら、それは矢印が自分に向いている証拠です。
「有料級の情報」を無料で出せるか?
真の顧客視点に立つための試金石があります。
それは、「相手にとって本当に役立つ情報なら、たとえ自分の利益にならなくても(あるいは損をしてでも)提供できるか?」という問いです。
例えば、Web制作のノウハウや、失敗しないための戦略。本来ならお金をいただいて提供するような「有料級の情報」を、惜しげもなく無料で公開する。
「そこまで教えたら、自社でやられてしまうじゃないか」と不安になるかもしれません。
しかし、ここで「損得勘定」を手放す勇気が必要です。
「これを見て、もしウチに発注しなくても構わない。それでも、この情報はこの人にとって絶対に必要だ」
そう腹を括って発信されたコンテンツには、小手先のテクニックでは作れない「熱量」と「真実」が宿ります。そして不思議なことに、そうやって「損得勘定抜き」で与えてくれる相手を、人は信頼し、最終的には選ぶものなのです。
なんて書くと、この記事自体に下心がありそうに思うかもしれませんが、「顧客視点ってなんだろう」と思う人の役に立ちたい、むしろ、もっといい考えを教えて欲しいという想いで書いています。
それくらい、真の顧客視点に立つということは難しいことだと感じています。
「説得」ではなく「手紙」を書く
では、どうすればその視点に立てるのでしょうか。
私が今、心がけているのは「たった一人の大切な友人への手紙」を書くつもりでコンテンツを作ることです。
ターゲット層としての「F1層」や「ペルソナ」に向けて書こうとすると、どうしても「どう攻略してやろうか」という思考が働きます。
そうではなく、今まさに仕事で悩み、夜も眠れないほど不安を抱えている具体的な「あの人」を思い浮かべる。
「その悩みなら、こうすれば解決できるよ」
「そこには落とし穴があるから気をつけて」
「大丈夫、あなたの方向性は間違っていないよ」
そこには、「売り込み」や「説得」が入る余地はありません。あるのは、相手の痛みに寄り添い、少しでも楽になってほしいという「Give(ギブ)」の精神だけです。
「理想論」だと笑われるかもしれません
ここまで読んで、「そんなのはビジネスを知らないやつの理想論だ」と思われた方もいるかもしれません。 おっしゃる通りです。これは間違いなく理想論です。
私たちブリッジも会社です。ボランティア団体ではありません。 売上がなければ社員を食べさせることはできないし、会社を存続させることもできません。「ギブ」だけで生きていけるほど、甘い世界ではないことも重々承知しています。
実際に、今でも見積書を作る時には「この金額で通るだろうか」と悩みますし、提案時には「競合に勝ちたい」というエゴが顔を出すこともあります。私たちはまだ、この「真の顧客視点」を完璧に体現できているわけではありません。
それでも、なぜ「ギブ」を選ぶのか?
では、なぜ今、あえてこんな青臭いことを書いているのか。 それは、AIが台頭し、小手先のテクニックや平均的なWebサイトがコモディティ化(無価値化)していくこれからの時代において、「損得抜きで相手を想う信頼」こそが、最強の生存戦略になると確信したからです。
テクニックで「操作」された顧客は、一度は買ってくれるかもしれませんが、ファンにはなりません。 一方で、本当に自分のことを想って「ギブ」してくれた企業に対しては、人は「次はあそこに頼みたい」「あの人に相談したい」という感情を抱きます。
つまり、「急がば回れ」なのです。 目先の利益を追って「操作」するよりも、時間はかかっても「信頼」を積み重ねる方が、結果としてビジネスを長く、強く成長させる。 私たちは、そう信じることに決めました。
「奪う人」から「与える人」へ
Webサイトは、とかく「獲得(コンバージョン)」のための装置だと思われがちです。
しかし、これからの時代に選ばれるのは、画面の向こうにいる相手から「時間」や「お金」を奪おうとするサイトではなく、訪れた人に「知識」や「勇気」や「解決策」を与えられるサイトだけではないでしょうか。
私たちブリッジも、まだ道の途中です。
ですが、「顧客視点」という言葉を「どうすれば売れるか」という問いから、「どうすれば目の前の人の役に立てるか」という問いに置き換えた瞬間、やるべきことが明確に見えてきました。
正直に言います。その結果、やっぱりいいことがありました。
もし、皆様がWeb活用に行き詰まりを感じているとしたら、一度立ち止まって考えてみてください。
そのコンテンツの「矢印」は、どちらを向いていますか?
投稿者プロフィール


- プロデューサー・クリエイティブディレクター。早稲田大学政治経済学部卒業。リクルートグループ、オン・ザ・エッヂ、ミツエーリンクス、博報堂アイ・スタジオを経て独立、株式会社ブリッジを設立。徹底的なユーザー視点でのWEBサイトの構築やコンテンツ制作を通じて事業課題の解決を支援している。
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