
売り込みの電話がよくくる。
だいたいはこんな感じだ。
「こんなことに課題感をお持ちじゃないでしょうか」
「弊社の代表は大手代理店出身でして…」
トークスクリプトにもとづいて、小さなイエスを積み重ねる作戦で畳み掛けてくる。
だがしかし、ぼくの心は動かない。それどころか凪。
その会社のサービスにも、代表のキャリアにもさっぱり興味がもてない。
興味があるのは自社の経営課題をいかにして解決するかだけなのだ。
相手の状況に関係なく、ただただ自社サービスについて話すという方法は運とか確率の問題なんじゃないかと思う。
実は、Webサイトにおいても似たようなことが起きている。
多くのWebサイトは、企業の文脈で作られている
売り込みの電話とは逆で、Webサイトには訪問者の方から自分の問題を解決する方法を求めて能動的に訪れる。
それなのに、多くのサイトには企業が言いたいことが並んでいる。そこに、訪問者とのズレが生じる。
訪問者が知りたいのは、その会社の価値観やサービスそのものではない。自分の問題を解決してくれるかどうか、信頼できる相手かどうかだ。これをわたしたちは「顧客の文脈」と呼んでいる。
でも企業は、価値観やサービスについて語ってしまう。これが「企業の文脈」だ。本来伝えるべきは、その価値観やサービスによって、顧客のどんな問題をどう解決できるかのはずだ。これがズレだ。
そして、タチが悪いことに自分たちではズレに気が付きにくい。
だから、アクセスはあっても問い合わせにつながらない。
このズレを解消するには、両者の文脈を明らかにするところから始める必要がある。訪問者の文脈と企業の文脈を並べて、どこがズレているのかを発見し、重なりをつくるのだ。
文脈設計とは何か
文脈設計とは、訪問者の文脈と企業の文脈をマッチングさせる設計の考え方であり、方法論だ。
訪問者がWebサイトを訪れるとき、その人には必ず文脈がある。今どんな状況にいるか、何に困っているか、何を探しているか、どんな言葉で検索してたどり着いたのか。
一方、企業にも文脈がある。何が強みか、どんな顧客を得意とするか、何を大切にしているか、競合と何が違うか。
どちらも存在する。問題は、この二つが噛み合っていないことだ。
訪問者の文脈を明らかにし、それに合わせて企業の文脈を翻訳する。その接点を設計する。それが文脈設計だ。
なぜ文脈はズレるのか
文脈がズレる原因は、訪問者の捉え方にある。
ターゲット設定において、訪問者の人物像を明らかにするところで止まってしまうことが多い。年齢、職種、役職、抱えている課題、そこまでは考える。でも次の瞬間、「この人にこれを伝えよう」という企業側の文脈にターゲットが吸収されてしまう。
ターゲットを決めたのに、結局また自分たちの話になる。
本来であれば、ターゲットを決めたなら、その人の文脈に入り込む必要がある。その人が今どういう状況にあって、何を考えているのか。何を見せて何を伝えれば興味を持ち、行動につながるのかを考える。
ターゲットは「伝える相手」ではなく「理解する相手」なのだ。
文脈設計の考え方
1. 訪問者の文脈を深掘りする
ペルソナ設計は多くの会社がやっている。ペルソナをつくると「やってる感」が出たりもするのだが、ペルソナをつくれば解決するわけではない。文脈設計で重要なのは「属性」ではなく「状況と感情」だ。
何に困ってこのサイトに来るのか。何を期待して検索ワードを打ち込んだのか。どんな感情を持ってページを開いているか。過去にどんな失敗や後悔があるか。
例えば、「Web制作会社 東京」というキーワードで検索した人でも、リニューアルにあたって上司から制作会社を探すよう指示を受けた担当者と、自社サイトを立ち上げたい経営者とでは、置かれている状況も考えていることもまったく違う。
お店を探すときも、お客さんと行く店と友達と行く店ではチェックポイントが違う。同じ行動でも、文脈が違えば求めているものが変わる。
「今、どこにいる人か」を解像度高く理解することが、文脈設計の出発点になる。
2. 企業の文脈を言語化する
企業の強み・らしさは、意外と言語化されていない。
「うちは丁寧だ」「対応が早い」「品質が高い」など、これらは強みではなく、どの会社も言っていることだ。
しかも、自分たちで見つけて言葉にするのは意外に難しい。近くにいすぎて見えないものがある。
ここで重要なのは、言語化の際にかっこいいコピーを考えることではないということだ。
文脈設計では「なぜその強みが生まれたか」「どんな場面でその強みが発揮されるか」「誰にとって最も価値があるか」まで掘り下げる。企業固有の文脈を言葉にする作業だ。
3. ズレを発見して設計に反映する
自社の商品やサービスについては、先入観や思い込みが生じていることが多い。企業は自分たちの文脈でサービスの価値を理解しているため、訪問者の文脈とズレが生じていても気づきにくい。
例えば、訪問者はデザイン性を評価してもっと知りたいとサイトを訪れたのに、企業側は機能こそが商品の価値と考えている、ということもある。知りたいことと伝えたいことのズレはこうして起きる。
文脈設計の際に壁になるのは、自社がこれまでに決めてきた提供価値を変えたくないという心理状態だ。ここが見直してアップデートしない限りは前に進めなくなってしまう。
前提が大きくズレてしまうと、どんなに丁寧に説明しても興味を持ってもらえない。
このズレを一つひとつ発見し、どのページの・どの位置で・どう解消するかを設計に落とし込む。それがこの工程だ。
4. 競合との違いを文脈で整理する
差別化は「機能の比較」で語られることが多い。でも訪問者は機能表を見て決めるわけではないし、Webサイトだけで判断を下すわけでもない。
サイトにある情報だけで即決することは稀だ。「問題を解決してくれそうか」「自社のことをわかってくれそうか」など、そのある程度の確認ができたら、あとは問い合わせて話を聞いてみようとなる。
つまり、「違い」とは必ずしも詳細な情報でつくるものではないということだ。
文脈設計では、競合との違いを「訪問者の文脈に対してどう応えるか」という視点で整理する。機能ではなく、関係性の違いとして見せる。
リアルでの営業プロセスと似ている。
文脈設計と心の動き
文脈が揃うとはどういうことか。
訪問者がページを開いた瞬間に「あ、これ自分のことだ」と感じる状態だ。探していたものがここにある、という感覚。自分のことをわかってくれている、という安心感。
一方、企業にとっては、自分たちの強みや価値が、必要としている人に正しく届いている状態だ。伝えたいことが伝わるべき相手に届く。
その両者が噛み合ったとき、訪問者は先を読もうとする。サービスの詳細を確認しようとする。問い合わせを検討しようとする。
逆に文脈がズレていると、情報は届いても「自分ごと」にならない。悪くはないけど、自分には関係ないかな、と感じてページを閉じる。企業にとっては、強みが強みとして伝わらない状態だ。
文脈設計は、その噛み合わせをつくるところから始まる。
「正しく届ける」ための設計
文脈設計は「いいサイトを作る」ではなく「正しい人に、正しく届くサイトを作る」ための考え方だ。
企業が伝えたいことを丁寧に並べるのではなく、訪問者がいる場所から設計を始める。その視点の転換が、問い合わせが来るサイトと来ないサイトの差を生む。
売り込み電話で「大手代理店出身です」と言われてもピンと来なかったように、受け手の文脈を無視した情報は、どれだけ正確でも刺さらない。
訪問者の文脈から始める。それだけで、サイトは変わる。
投稿者プロフィール


- プロデューサー・クリエイティブディレクター。早稲田大学政治経済学部卒業。リクルートグループ、オン・ザ・エッヂ、ミツエーリンクス、博報堂アイ・スタジオを経て独立、株式会社ブリッジを設立。企業とユーザーの文脈設計を得意としている。公益財団法人画像情報教育振興協会委員
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