ストーリーの力

30年近くWebサイトの企画・制作に携わってきて印象に残っているのは、成功したプロジェクトには必ず「心に響くストーリー」があったということです。

どのような商品やサービスも、ただ機能や性能を伝えるだけでは顧客の心に届きません。私たちが日々接する広告やWebサイトの中で、特に記憶に残るものには必ずと言っていいほど物語があります。それは、情報以上の感情的なつながりを生む力がストーリーにはあるからです。

ストーリーが持つ力

なぜストーリーが重要なのでしょうか。それは、ストーリーが単なる情報の伝達手段を超えて、人々の心に残りやすいからです。人は、心が動かなければ行動に移すことはありません。単なるデータやスペックの羅列では、人々の感情に訴えかけることは難しいですが、ストーリーを通じて具体的なシーンや感情を想像させることで、共感や信頼を生むことができます。

以前手がけた住宅メーカーの公式サイトでは、「家を建てる」というライフイベントに寄り添った物語を伝えることで、数値や性能では伝えきれない家の魅力を成功裏に伝えています。この手法を取り入れた際には、新築の家で家族がどのような時間を過ごし、どのような成長を見守っていけるかを具体的に描写しました。

その結果、顧客は単なる建築物としてではなく、自分たちの未来を実現するための家として製品を捉えるようになり、認知度や資料請求数が大幅に向上しました。この事例は、ストーリーがいかに顧客の感情を動かし、購買行動を促すかを物語っています。ストーリーは、製品やサービスに命を吹き込み、顧客の心に深く訴えかける有効な手段だと確信した瞬間でした。

ストーリーで感情を動かす

BtoCの事例

私たちのクライアントである金庫メーカーは、これまでの無骨なデザインから脱却し、デザイン性の高い金庫を提案しています。同社のコーポレートサイトやブランドサイト、 ECサイト、ランディングページ、SNS、広告では、"金庫は単なる防犯・防災ツールではなく、暮らしに美しく溶け込む存在であるべきだ"という考えを物語として伝えています。

このストーリーを通じて、顧客は「安心」だけでなく「美しさ」という新たな価値に触れることができます。石目柄やステンレス、ウォールナットなどの素材を利用したデザイン性の高い金庫は、家族の安心を守るだけでなく、インテリアの一部としても高く評価されています。

これにより、製品に対する興味関心はもちろんのこと、愛着や共感が生まれ、問い合わせや購入数も大きく向上し、売上も大きく拡大するという成果を上げています。様々なメディアを活用し、一貫したストーリーを展開し続けることにより、認知度や売上の面において継続的な成長をもたらすことに成功しています。この具体的な結果は、デザインとストーリーテリングの融合がどれほど顧客の心に響くかを示しています。

BtoBの事例

フィットネスマシンの導入を支援する企業では、単に機器を提供するだけでなく、"健康をプロデュースする"というビジョンを掲げています。この企業は、マシンの導入を通じて、施設の利用者や企業の従業員の健康、職場環境の改善を促進するストーリーを顧客に伝えています。このアプローチにより、顧客は単なる製品購入を超え、長期的な健康促進パートナーとしての価値を感じることができ、新規顧客の獲得や信頼構築につながっています。

これからのWebマーケティングとエンゲージメントの重要性

これからのWebマーケティングにおいて、エンゲージメントはますます重要な要素となるでしょう。ただ商品やサービスを提供するだけでなく、顧客との深い関係性を築き、長期的な信頼を醸成することが求められる時代です。エンゲージメントとは、単なる接触や閲覧ではなく、顧客が主体的に関わり、共感を抱くプロセスです。その中心にあるのがストーリーテリングです。

ストーリーは、顧客が製品やサービスに対して感情的なつながりを持つための有効な手段です。たとえば、製品の開発背景や利用者の成功事例を共有することで、単なる取引以上の価値を感じてもらうことができます。これは、UI/UXの設計にも大きく影響を与えます。シンプルで直感的なデザインだけでなく、ユーザーがストーリーを追体験できるような工夫が必要です。具体的には、製品やサービスの使い方を示すだけでなく、その利用がどのように生活や業務を改善するのかを描写することで、顧客の期待感を高めることが可能です。

インタラクティブなコンテンツとユーザー文脈の重要性

近年のWeb制作では、単に情報を伝えるサイトを作るだけではなく、ユーザーがどのような文脈でそのWebサイトを利用するのかを深く考えた設計が求められます。サイトに訪れるユーザーは、自分自身の課題を解決しようとしている場合もあれば、新しい可能性を模索している場合もあります。その中で、ユーザー自身がそのストーリーに自分を重ね合わせられるような設計が重要です。

たとえば、企業の価値観や製品の利用シーンを具体的に示すことで、「これは自分にとって意味のある情報だ」と感じられる体験を提供することができます。ユーザーがその情報を自身の状況やニーズに当てはめて考えられるようになると、製品やサービスが単なる商品以上の存在として捉えられるようになります。このようなユーザー視点を重視したWebサイト設計により、訪問者はより深く関わり、製品やサービスが自分自身にとって価値あるものと感じられるようになります。この結果、単なる閲覧を超えたエンゲージメントが生まれ、長期的な信頼関係の構築へとつながります。

広告会社やブランディング会社との違い

広告会社やブランディング会社が扱うビジュアル表現やコピーライティングは、顧客の心を動かすための強力な武器です。彼らが伝えるストーリーは、動画や印刷物などの静的なフォーマットで表現されることが多く、それぞれの専門分野で顧客の心に響くクリエイティブを生み出しています。私たちもご一緒する機会がありますが、考え方や見せ方はとても勉強になります。

一方で、ウェブ制作会社には、ビジュアル表現やコピーライティングに加え、UIやUXといった技術的な要素を組み合わせたストーリーテリングを提案できる独自の強みがあります。インタラクティブなWebコンテンツを活用し、ユーザーがストーリーを「体験」できるような仕組みを提供することで、異なる価値を生み出します。これにより、ユーザーは単なる視覚的な印象を超えて、そのストーリーに深く関与し、自分ごととして捉えることが可能になります。

まとめ

ストーリーテリングは、単なるマーケティング手法にとどまらず、顧客に新しい視点や価値を提供する力を持っています。顧客が感情移入できる物語を通じて、共感や信頼が育まれるとともに、UIやUXを活用した分かりやすく効果的な伝達が、それをさらに後押しします。

例えば、Eコマースサイトで商品購入までのプロセスをスムーズにし、商品の背景や使い方をストーリーとしてビジュアルや動画で伝える仕組みを提供することで、訪問者が自然に商品の価値を理解しやすくなります。このようにUIやUXの具体的な工夫は、顧客体験を向上させる重要な要素となります。

私たちブリッジは、顧客の視点に立ったストーリーテリングを中心に据え、顧客にとっての具体的なメリットを最大化する設計を提供しています。これにより、クライアントとその先の顧客との間に新しい価値を生み出すサポートをしています。

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ブリッジ代表の橋本の日々の気づきや考えに関するコラム。

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投稿者プロフィール

橋本敬(はしもとたかし)
橋本敬(はしもとたかし)
プロデューサー・クリエイティブディレクター。早稲田大学政治経済学部卒業。リクルートグループ、オン・ザ・エッヂ、ミツエーリンクス、博報堂アイ・スタジオを経て独立、株式会社ブリッジを設立。徹底的なユーザー視点でのWEBサイトの構築やコンテンツ制作を通じて事業課題の解決を支援している。