
毎日、AIの話題を見ない日はありません。
「日進月歩」という言葉がありますが、体感としては、もはや「日進日歩」と言いたくなるくらいの勢いです。朝ニュースをチェックすれば、新しいサービスや機能の話題が出ていて、SNSでは「こんなことまでできるのか」という驚きの声が流れてきます。
たしかに、AIでできることは増えました、なんて冷静に言っている場合じゃないくらい毎日進化しています。
たった数行のプロンプトで、WebサイトやLPの構成ができあがりデザイン案が出てくる。アプリの試作品が動く。いい感じの文章をつくり、画像を生成してくれる。少し前なら専門的な知識や時間が必要だったことが、驚くほど短い時間で形になるようになっています。
制作の入口は、間違いなく広がっています。
ただ、最近少し気になることがあります。
形になったあとに、何が届くのか
「たったこれだけのプロンプトで、ここまでできる」
「もうデザイナーはいらないかもしれない」
「LPもアプリも、これで十分かも」
そんな話題が盛り上がる一方で、肝心なことが置き去りにされているように感じるのです。
それは、誰に、何を受け取ってほしいのかということです。
Webサイトも、LPも、アプリも、ただ形になればよいわけではありません。
- 見た人に何を感じてもらいたいのか
- どんな悩みを解決する手助けをしたいのか
- どんな判断を後押ししたいのか
本当に大事なのは、むしろそこではないかと思います。
AIが形をつくる力を持ったからこそ、人間には「何をつくるか」だけでなく、「なぜその形で、誰に何を届けるのか」を考える力がより強く求められているのではないでしょうか。
AIは、形にする力を持ち始めている
例えばですが、AIの進化によって、コンテンツ制作のハードルは大きく下がりました。
- 文章を書く
- 見出しを出す
- 構成を考える
- デザインの方向性をつくる
- コードを書く
- 簡単なアプリを動かす
これまで人が時間をかけていた作業の多くが、AIによって短時間で形になるようになっています。
もちろん、すべてが完璧というわけではありません。実務で使うには調整も必要ですし、品質を見極める力も必要です。それでも、ゼロから手を動かすよりも早く、一定の形にたどり着けるようになったことは間違いありません。
これは、制作に関わる人にとって脅威であると同時に、大きな可能性でもあります。
ただし、ここで大切なのは、AIによって浮いた時間を何に使うかです。
単に早く作るためだけにAIを使うのか。それとも、より深く考える時間をつくるためにAIを使うのか。
この違いは、これからの制作物の質を大きく分けるように思います。
いい感じに見えることと、伝わることは違う
AIを使えば、見た目の整ったものは以前より簡単につくれるようになりました。
- それっぽいコピー
- 整ったレイアウト
- 今風のデザイン
- 読みやすい文章
こうしたものは、AIがかなり高い精度で出してくれます。
でも、いい感じに見えることと、相手に伝わることは同じではありません。
見た目が整っていても、誰に向けたものなのかが曖昧であれば、印象には残りません。言葉がきれいでも、相手の状況とずれていれば、心には届きません。構成が整理されていても、読み手の迷いや不安に触れていなければ、行動にはつながりません。
WebサイトやLPは、情報を並べる場所ではありません。訪れた人の認識が少し変わる場所です。
「ここなら相談できそうだ」
「この事例は自分たちの状況に近いかもしれない」
「この会社は、こちらの背景を理解したうえで提案してくれそうだ」
そう感じてもらうためには、単に情報を整えるだけでは足りません。
相手の文脈を踏まえて、コンテンツの設計をすることが必要です。
と書きながらも、正直なところ、圧倒的なスピードと量を前にすると、こんなことを言っていること自体が、もはやきれいごとに過ぎないのではないかと思うこともあります。
工数の削減は経営的にもものすごくありがたいことだし、制作物はもちろん、社員の働き方も大きく変わります。制作にとどまらずどんどん活用していきたいと思っています。
それでもぼくは、コンテンツ制作の今の状況に対して、やっぱり気になって仕方ないことがあります。
文章には、その人らしさが出る
AIは文章をつくることができます。
しかも、かなり自然に、読みやすく、破綻の少ない文章をつくることができます。
でも、文章の価値は、言葉のきれいさだけで決まるわけではありません。その文章がどこから始まり、どこへ向かい、どんな余韻を残すのか。そこには、その人らしさが出ます。
- 何を見ているのか
- 何を問題に感じているのか
- どこで立ち止まるのか
- 何を先に伝え、何をあえて後に回すのか
- どこに余白を残すのか
そうした判断の積み重ねが、文章の展開をつくります。
そして、その展開にこそ、その人らしさが表れます。
AIが出す文章は、平均的に整っていることが多いように感じます。だからこそ、読みやすい一方で、誰が言っているのかが見えにくくなることもあります。
それは、AIが悪いという話ではないし、すべてのコンテンツが署名記事であるはずもありません。
AI時代に問われるのは、文章力そのものだけではありません。その前にある、視点の持ち方や、文脈の読み取り方なのだと思います。
人間側が何を大切にしているのか、どんな視点で世界を見ているのかを持っていなければ、AIが出す文章はどんどん無難な方向に寄っていくということです。
人間の仕事は、最後の一文を直すことだけではない
AIを使った文章づくりの話になると、「最後は人間が調整する」という言い方をよく見かけます。もちろん、それはその通りです。調整はね、しておかないと。
- 言葉遣いを調整する
- 全体のトーンを整える
- 不要な表現を削る
- 自分たちらしい言い回しに変える
そうした仕上げは大切です。
ただ、人間の役割を「最後の調整」にだけ置いてしまうと、少し狭い気がします。
本当に人間が担うべきなのは、もっと上流にあります。
- 誰に向けて書くのか
- その人は何に迷っているのか
- 何を知りたいのか
- 何に不安を感じているのか
- 何を言われると、かえって距離を感じるのか
- どんな順番で伝えれば、納得に変わるのか
最初に、独自の視点でこうした問いを立てることです。
今、AIを活用するうえで一番必要とされているのは、問いの力だと思っています。
AIは、問いに対して答えを出すことが得意です。でも、何を問うべきかは、人間が決める必要があります。問いに独自の視点があれば、AIから返ってくる答えの方向も変わります。
一般的な問いを立てても、一般的な答えが返ってくるのは当然のことでしょう。
Webサイトをつくるときも同じです。誰のどんな状況に向き合うのかを考えなければ、制作物は表面的な形にとどまってしまいます。
人間の仕事は、AIが出したものを少し整えることだけではありません。
その人らしい視点で、読み手の認識が変わっていく展開をつくること。そして、企業の文脈と、受け取る人の文脈をつなぐこと。
そこにこそ、これからのWeb制作における人間の役割があるのだと思います。
AI時代だからこそ、文脈設計が大切になる
AIで形がつくれるようになると、制作物の量は増えていきます。
Webサイトも、記事も、LPも、広告も、SNS投稿も、今までより短い時間で大量につくれるようになりつつあります。
そうなると、ただ整っているだけのものは、ますます埋もれていきます。
- きれいなデザイン
- 読みやすい文章
- それっぽい構成
これらは、以前よりも簡単に手に入るようになります。
だからこそ、差が出るのは、その手前です。
そのアウトプットになった理由は何か?
最初に状況をふまえた設計があるかどうかで、同じAIを使っても、できあがるものは大きく変わります。
ブリッジでは、こうした考え方を「文脈設計」と捉えています。
企業には企業の文脈があります。大切にしてきた価値観、事業の背景、顧客との関係、これから目指す方向があります。
一方で、訪問者にも訪問者の文脈があります。課題、迷い、不安、比較している選択肢、判断の基準があります。
Webサイトに必要なのは、企業が言いたいことをそのまま並べることではありません。訪問者が受け取れる形に変換し、企業の価値が自然に伝わる流れをつくることです。
AIで形がつくれる時代だからこそ、この文脈設計の重要性はむしろ高まっていると感じています。
AIで形が作れる時代に、何を遅く考えるか
繰り返しますが、AIによって、制作は速くなりました。
制作の現場にとって、大きな武器です。
でも、すべてを速くすればよいわけではありません。
むしろ、速くつくれる時代だからこそ、あえて時間をかけて考えるべきことがあります。
- 誰に届けるのか
- 何を受け取ってほしいのか
- なぜ、その順番で伝えるのか
- どんな気持ちで読み終えてほしいのか
- その人の中に、どんな変化が生まれればよいのか
ここをなんとなく進めてしまうと、いくら速く作っても、他社との違いの感じられない、それっぽい制作物が増えていくだけになります。
AIを使うこと自体が目的なのではありません。AIによって生まれた余白を、何を考えるために使うのか。
形はAIつくれる。だからこそ、その前にぼくたちは考えたい。
誰に、何を受け取ってほしいのか。
そこに、その会社らしさや、作り手の姿勢が出るのだと思います。
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投稿者プロフィール

- プロデューサー・クリエイティブディレクター。早稲田大学政治経済学部卒業。リクルートグループ、オン・ザ・エッヂ、ミツエーリンクス、博報堂アイ・スタジオを経て独立、株式会社ブリッジを設立。企業とユーザーの文脈設計を得意としている。公益財団法人画像情報教育振興協会委員
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