WEB制作会社を営むなかで最近よく考えることは、「今のような形態のWEB制作会社はいずれなくなるだろうな」ということです。
もちろん、すべてのWEB制作会社がすぐになくなるとは思っていません。でも、ここから数年は淘汰というよりも分断が進むのではないかと考えています。WEBサイトの制作を支援する会社とWEB制作を通じてビジネスでの活用を支援する会社です。
どちらが良いとか正しいとかではありません。ビジネスモデルの違い、会社のタイプの違いにすぎないのですが、その違いはより明確になっていくのではないかと考えています。
顧客のWEB活用の分断化が進む
近年感じていることは、私たちのようなWEB制作会社に依頼をする顧客側の分断化のスピードが上がりつつあるということです。ここでいう分断化とは、WEBを信じてマーケティングやブランディングに活用しようと考える会社と、名刺がわりのWEBサイト(とよく例えられます)を持ちたいという会社に分かれるということです。
投資なのか、コストなのか
どちらのタイプの会社もWEBサイトの必要性は感じていますが、求めるものや期待値がまったく異なります。WEBをマーケティングやブランディングに活かそうと考える会社は、制作にかかる費用を投資と考えます。一方で、名刺がわりのサイトと考える会社は制作費をコストとして考えます。
これまでも、WEBを活用したいというニーズと名刺がわりのサイトをつくりたいというニーズはありましたが、マーケット全体を見ると、はっきり分かれているわけではなく、そこにはグラデーションがありました。
コロナ禍で起きた状況の変化
しかし、コロナ禍を受けて、この状況は変化をすることになります。先行きの見えない状況の中で、WEBにお金をかけられるかどうかはグラデーションではなくなりました。実際に、補助金や助成金の後押しもあり、ECサイトやWEBサイトへのニーズが高まりました。特需と言えるような需要があったわけではありませんが、これまでECやWEBに興味を持ち合わせていなかった会社がサイトを立ち上げる、もしくはリニューアルするケースもありました。
もともとWEBを活用してきた会社や、新規立ち上げやリニューアルを機に本腰を入れてWEB活用に取り組むようになった会社は、投資に見合う効果が得られるのであれば、お金をかけてビジネスを成長させていこうという傾向を強めます。
WEBの活用ニーズに対する消えゆくグラデーション
一方で、名刺がわりのサイトは、強い目的をもってつくられることが少なく、戦略や中長期の計画もないままに放置されてしまうことが多いため、お金をかけてもさほど効果を感じられないのが実情です。できるだけお金はかけたくないと考えるのは、当然のことでしょう。
リアルでの営業活動があったからこそ、WEBサイトには名刺がわりという役割が与えられていましたが、リアルが限りなく縮小した時、戦略なしでは、そのようなサイトは機能しませんでした。コロナ禍の状況がかわり、このような会社は、WEBの活用ではなくリアルでの顧客接点の構築に回帰していくことになります。
グラデーションの中間にいた会社は、投資をして活用に本腰を入れるか、コストとして最低限の費用で維持するのどちらかに寄っていっているように感じます。
WEB制作会社もまた分断化していく
このように、顧客側の分断が進んでいるとしたら、当然のことながらWEB制作会社もまた分断していきます。
WEB制作会社はどんなことが提案できるのか
顧客と一緒にWEB活用を推進する制作会社と名刺がわりのWEBサイトをつくる会社に分かれ、グラデーションの中間に位置していた制作会社は、自社のケイパビリティに合わせてどちらかに寄って行かざるを得なくなると考えます。
ビジネスでWEBを活用するためには、制作に関する技術や知識、経験だけではなく、マーケティングやブランディング視点での知見も必要です。すべてがWEBで完結することばかりではないので、リアルとの連携による相乗効果を見据えたプランニングが必要になることもあります。顧客のビジネスへの深い理解と提案が求められます。
名刺がわりのWEBサイトを制作するのであれば、より高いコストパフォーマンスが必要になるでしょう。先述のように名刺がわりのWEBサイトに対して感じる価値は下がっているので、価格競争はより厳しくなるでしょう。
こうした状況を受けて、グラデーションの中間に位置していた制作会社は、自分たちがどちらに向かうのか、もしくはさらに違う方向へ向かうのかを考えなければならないタイミングにきているように感じています。
最近では、「WEB制作会社はオワコン」といったワードを耳にすることもありますが、この変化に対応できない制作会社はなくなるのだろうと思います。
新しいツールや変わりゆく技術をどう受け入れるか
ノーコードのツールも存在感を高めつつありますが、そこにはWEB制作に関する専門知識やデザイン技術がまだまだ必要であるため、顧客側で誰でも簡単に美しいサイトがつくれるという段階ではありません。それでも、テンプレ自社でできる範囲で十分と考えれば、実用の範囲にあると言えます。
集客や認知促進という側面に目を向ければ、検索エンジンの仕様も絶え間なく変化しており、先日(2023年8月30日リリース)、グーグルから、生成AIによる検索体験の試験運用開始のアナウンスがありました。
詳細についてはここでは割愛しますが、これまでのようなSEOの考え方、広告の考え方だけでは、うまく対応できなくなることが想像できます。
このように、WEBを活用するための状況は日々変化をしています。変化を受け入れながら、顧客企業のためにどのような価値を提供できるのか、日々アップデートしていくことが必要だと痛感しています。
ゴールに向けた本質的かつ総合的なアプローチが大切
再現性という言葉をよく耳にしますが、インターネットの世界では技術や仕様がどんどん変わっていくので、ある局面で再現性を見出せたとしても、長く続くものではありません。
技術やツール、サービスはあくまでもゴールへ到達するための手段です。
私たちが行うべきことは、ゴールにたどり着くためには何が必要かを考える続け、よりベターな選択をし続けることです。
そのためには、技術やツール、サービスを前提とせずに、WEBサイトの利用者の視点で解決すべき課題を見つけることが必要です。その上で、従来の考え方ややり方にとらわれることなく、アプローチをすることが大切だと考えます。
私たちは、WEBですべてが解決するとは考えていません。
「誰に」「何を」「どのように」伝えれば、行動につながるのか。
どのようにアプローチをすれば良いのかは、顧客のさらに先にいる顧客によって決まると考えています。
投稿者プロフィール
- プロデューサー・クリエイティブディレクター。早稲田大学政治経済学部卒業。リクルートグループ、オン・ザ・エッヂ、ミツエーリンクス、博報堂アイ・スタジオを経て独立、株式会社ブリッジを設立。徹底的なユーザー視点でのWEBサイトの構築やコンテンツ制作を通じて事業課題の解決を支援している。
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