データを眺めても、答えは出ない。そこに物語を見つけたとき、売れる。

売上が伸び悩んでいる。なのに、商品への自信はある。お客さんもいる。他社との違いもある。

このもやもやの正体は、多くの場合ひとつだ。お客さんのことを、本当にはわかっていない。

アクセス解析を見た。レビューも読んだ。競合も調べた。それでも「どう伝えればいいか」が決まらないなら、集めているのはデータだけで、顧客を理解できていない可能性がある。

データ分析は顧客理解の入口に過ぎない。その先に何があるかを、順番に整理していく。

データ分析だけでは顧客を理解できない

ターゲット分析は、属性ではなく「買う理由」で見る

「ターゲット」「ペルソナ」という言葉は便利だが、使いすぎると罠にはまる。顧客を属性でくくったとき、その中にいる一人ひとりの「理由」が消える。

同じ商品を買っていても、動機は人それぞれだ。価格で選んだ人もいれば、ブランドで選んだ人、誰かに勧められた人もいる。なぜ買ったのか。なぜ買わないのか。そこに向き合うと、思いがけない発見が出てくる。

顧客の言葉はそのまま信じない。本当のニーズは言葉の奥にある

「どんな機能があれば使いますか?」この質問への答えは、そのまま信じないほうがいい。マクドナルドがかつてお客さんの声に応えてサラダメニューを充実させたが、思ったように売れなかった話は有名だ。お客さんが「ほしい」と言ったものと、実際に「手が伸びる」ものは必ずしも一致しない。

大事なのは、言葉の「奥」を読むことだ。「もっと使いやすければ」という不満の裏に何があるか。「価格が高い」という言葉の奥に、何が見えていないのか。

データが示すのは「何が起きたか」であって「なぜか」ではない

データは過去の事実を示すが、未来の正解を保証しない。分析から出てくるのはあくまで仮説であり、試して確かめ、修正して、また試すことで少しずつ正解に近づいていく。

データを「正解を出すツール」として使おうとすると、分析が目的化する。本来の目的は、顧客をより深く理解することだ。

顧客分析は、目的を先に決めないと方向を失う

「分析しよう」と動き始める前に、一度立ち止まりたい。

  • 今のターゲットに、もっと刺さる伝え方を見つけたいのか
  • 今とは違う層にアプローチしたいのか
  • 商品・サービス自体を見直したいのか

ゴールが曖昧なまま集めたデータは、どこへ向かえばいいかわからなくなる。「この分析で何を決めるか」を先に決めるだけで、見るべきものが絞られる。

顧客理解に必要なのは、数値だけでなく言葉の熱量とニュアンスだ

収集すべきデータの例:

  • サイトのアクセス解析(どのページに来て、どこで離脱したか)
  • 商品・サービスのレビュー
  • SNSのコメント・反応
  • 競合他社の動き
  • 検索キーワードのトレンド

ただし、数値だけを見ても表面しかわからない。レビューの「良かったです」という5点と「これがなかったら困っていた」という5点は、同じ星の数でも全然違う。SNSのコメントも、何に驚き、何に共感し、何に引っかかりを感じているか。その文脈を読まずに集計しても、本音には届かない。

データを読むと、自社への思い込みが崩れる瞬間がある

  • 「BtoCの商品だと思っていたが、法人からの問い合わせが来ていた」
  • 「50代向けだと思っていたが、30代が熱心に使っていた」
  • 「この機能が売りだと思っていたが、お客さんが評価していたのは別のところだった」

「うちの商品はこういうもの」という前提を一度外すことで、見えていなかった自社の価値が浮かび上がる。分析の醍醐味は、数字を集めることではなくここにある。

数字の変化には感情の動きが伴っている。その感情を読むことが深い顧客理解につながる

直帰率が上がったのはなぜか。コンバージョン率が下がったのはなぜか。その答えは数値の中にはない。「どんな気持ちでこのページに来て、何を感じて離れたか」という感情の流れを想像したとき、初めて「なぜその数字になったか」が見えてくる。

ブリッジでは、この考え方をエモロジメソッドと呼んでいる。エモロジメソッドとは、「人は感情で動き、論理で正当化する」という前提のもと、データの奥にある感情の動きを読み、コミュニケーション設計に活かす手法だ。数値を追うだけでなく、その背後にある感情を想像することで、顧客理解は一段深くなる。

エモロジメソッドについて、詳しくはこちら

顧客理解が深まるほど、「誰に何をどの順番で伝えるか」が決まる

同じ商品でも、誰に向けて書くかで言葉は変わる。同じ事実でも、その人の文脈に合わせて並べ方が変わる。

ブリッジが文脈設計と呼んでいるのは、この考え方だ。文脈設計とは、サイト訪問者がどんな背景・課題・感情を持ってやってきて、どんな流れで理解・共感・行動に至るかを設計することを指す。顧客理解なしに文脈設計はできない。逆に言えば、顧客理解が深まるほど、設計の精度が上がる。

文脈設計について、詳しくはこちら

データ分析の目的は、数字を出すことではなく、その奥にいる人を理解することだ

データは「答え」を出してくれない。でも、どこを向けばいいかを教えてくれる。大切なのは、データを眺めることではなく、その奥にいる「人」を想像しながら読むこと。そしてその理解を、伝え方の設計に落とし込むことだ。

顧客の中に、ヒントはもうある。それを見つけるための問いを持ち続けることが、伝わるコミュニケーションの出発点になる。

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投稿者プロフィール

橋本敬(はしもとたかし)
橋本敬(はしもとたかし)
プロデューサー・クリエイティブディレクター。早稲田大学政治経済学部卒業。リクルートグループ、オン・ザ・エッヂ、ミツエーリンクス、博報堂アイ・スタジオを経て独立、株式会社ブリッジを設立。企業とユーザーの文脈設計を得意としている。公益財団法人画像情報教育振興協会委員