価値は、受け取る人の文脈によって変わる

企業のWebサイトには、さまざまな情報が掲載されています。

事業内容、サービスの特徴、技術力、実績、企業としての強み。どれも、その企業を理解してもらうための大切な情報です。

しかし、これらの情報をわかりやすく整理し、丁寧に説明すれば、企業やサービスの価値が伝わるのでしょうか。

私たちは、必ずしもそうではないと考えています。

なぜなら、同じ情報であっても、それを受け取る人の状況や目的によって、意味が変わるからです。

商品やサービスの特徴は、それだけでは価値にならない

例えば、ある商品に「軽い」という特徴があるとします。

日常的に持ち運ぶ人にとっては、使いやすさにつながる魅力的な特徴です。一方で、安定感や重厚さを求める人にとっては、必ずしもメリットになりません。場合によっては、不安を感じる理由にもなるでしょう。

商品の特徴そのものは変わっていません。

変わるのは、その特徴を受け取る人の状況や目的です。

これは、企業のサービスや技術力についても同じことがいえます。

「ワンストップで対応できる」という特徴は、複数の会社に発注する負担を減らしたい企業にとって、大きなメリットになります。

しかし、すでに専門性の高いパートナーと協業している企業にとっては、必ずしも重要な選択基準ではありません。むしろ、特定の領域における高度な専門性を求めているかもしれません。

つまり、企業が持つ強みや特徴が、そのまま顧客にとっての価値になるわけではないのです。

価値は、提供する側の特徴と、受け取る側の状況や目的が結びつくことで生まれます。

伝えたいことと、知りたいことは同じではない

企業がWebサイトを制作するとき、まず考えがちなのは、自分たちが何を伝えたいかということです。

他社にはない技術力を伝えたい。豊富な実績を紹介したい。サービスの幅広さを知ってもらいたい。

いずれも大切なことです。

しかし、Webサイトを訪れる人が、必ずしもその順番で情報を求めているとは限りません。

自分の課題を解決できる会社を探している人もいれば、複数の選択肢を比較している人もいます。まだ具体的な課題を認識しておらず、情報収集を通じて何が必要なのかを考えている人もいるでしょう。

同じWebサイトを訪れていても、置かれている状況や関心は異なります。

高度な技術を持つ企業のWebサイトでも、同じことがいえます。

技術の専門性を詳しく知りたい人もいれば、その技術によって何が実現できるのかを知りたい人もいます。求めている情報が違えば、適切な伝え方も変わります。

技術の詳細を丁寧に説明することが、必ずしもすべての人の理解につながるわけではありません。

一方で、専門的な情報を省略してしまえば、技術力を判断したい人にとっては不十分なWebサイトになります。

重要なのは、どちらか一方に合わせることではありません。

それぞれの人が、必要な情報を、必要な文脈の中で理解できるようにすることです。

そのためには、情報の内容だけではなく、伝える順番や見せ方、情報同士のつながりまで考える必要があります。

相手の立場に立つことと決めつけてしまうことの違い

ここで気をつけたいことがあります。

それは、受け取る人の状況や目的を考える際に、相手が何に困っているのかを自分たちに都合よく考えてしまうことです。

「きっと、こういう課題を抱えているはずだ」
「このようなメリットを求めているに違いない」

こうした想定は、情報を設計するうえで必要な仮説にはなります。しかし、それを事実として扱ってしまうと、かえって相手の理解から遠ざかることがあります。

業務効率化を強みとするサービスについて考えてみましょう。

時間やコストの削減を重視する企業には魅力的かもしれません。しかし、業務の効率よりも品質や独自性を優先している企業に対して、効率化のメリットばかりを説明しても、十分に響かないでしょう。

相手の立場に立っているつもりでも、実際には自分たちの商品やサービスに都合のよい顧客像をつくっているだけかもしれません。

だからこそ、顧客の状況や行動を理解しようとすると同時に、自分たちの想定が正しいのかを問い直すことが大切です。

顧客へのヒアリング、現状のWebサイトの分析、競合との比較、実際の利用場面の検討などを通じて、仮説を確かめ、必要に応じて修正していく。

こうした過程があって初めて、相手にとって意味のある情報の伝え方が見えてきます。

文脈を設計するということ

私たちブリッジは、Webサイトを制作するうえで「文脈設計」を重視しています。

文脈設計とは、単に情報を整理したり、わかりやすい言葉に置き換えたりすることではありません。

企業やサービスが持つ特徴と、それを受け取る人の状況や目的を理解し、両者がどのようにつながれば価値として伝わるのかを考えることです。

そのために、私たちは次のような視点を大切にしています。

  • 誰に伝えるのか。 どのような状況や目的を持つ人が、その情報に接するのか。
  • 何を伝えるのか。 企業の特徴や強みのうち、相手にとって意味を持つ情報は何か。
  • どのように伝えるのか。 どのような言葉やビジュアル、情報の順番で伝えれば理解や納得につながるのか。
  • その前提は正しいのか。 想定している顧客像や価値が、提供する側の思い込みになっていないか。

こうした検討は、Webサイトの構造や導線だけでなく、コピーライティング、写真、動画、デザインなど、あらゆる表現に関わります。

企業を紹介する写真一つをとっても、何を見せるかによって伝わる価値は異なります。

設備の規模を見せるのか、そこで働く人の姿を見せるのか。どちらを選ぶかは、単なるビジュアルの好みではなく、何を伝えるべきかという設計上の判断です。

同じサービスを説明する文章でも、機能から説明するのか、その機能によって実現できることから説明するのかによって、理解のされ方は異なります。

表現とは、情報を美しく整えることだけではありません。

何を見せ、何を伝え、どのような理解や感情につなげるのか。その一つひとつの選択に、意図が必要だと考えています。

情報を届けるのではなく、価値が伝わる状態をつくる

Webサイトは、企業が持つ情報を掲載する場所であると同時に、企業と顧客が出会い、互いを理解する接点でもあります。

だからこそ、企業が伝えたいことを一方的に並べるだけでは、十分ではありません。

どれほど優れた技術やサービスであっても、それが自分にとってどのような意味を持つのかわからなければ、選択肢として認識されないことがあります。

反対に、それまで意識していなかった特徴が、自分の状況や目的と結びついた瞬間、新しい価値として見えてくることもあります。

情報そのものを変えなくても、伝える相手や順番、見せ方を変えることで、その情報の意味が変わる。

私たちは、そこにWebサイトを設計することの重要性があると考えています。

企業が持っている価値を、ただ説明するのではなく、それを必要とする人が、自分にとっての意味として理解できるようにする。

企業が伝えたいことと、顧客が価値を感じること。その間にある距離を縮めることが、私たちの考える文脈設計です。

投稿者プロフィール

橋本敬(はしもとたかし)
橋本敬(はしもとたかし)
株式会社ブリッジ代表取締役。Web制作会社、広告会社系列制作会社などで、企業サイトの企画・制作・プロデュースに従事。現在は、企業やサービスの強みの整理、文脈・情報設計からWebサイト制作を支援。早稲田大学政治経済学部卒業。公益財団法人画像情報教育振興協会委員