きちんと説明しているのに、最後は価格で比較される理由

自分たちにしかできないことがある。長く積み重ねてきた経験があり、仕事の進め方を磨き、顧客からは見えにくいところにも手間をかけている。それなのに、顧客から見れば他社と同じようなサービスに見え、最後は見積書の一番下にある金額で比較されてしまう。

そんなふうに感じたことはありませんか?

ぼくは何度もそのような思いをしてきました。

悔しいのは、受注できなかったことだけではありません。自分たちが大切にしてきたものや、仕事の中に確かにある違いが、ちゃんと認識してもらえず、比較の対象にすら入っていないと感じることです。

こちらには価格以外の違いが見えているのに、顧客にはそれが見えていない。この認識の隔たりが埋まらないままでは、どれだけ真摯に仕事をしていても、似たような会社のひとつとして扱われてしまいます。

ですが、顧客が必ずしも、こちらの価値を軽く見ているとは限りません。価値がないと判断したのではなく、違いを判断できるところまで理解できていない可能性があります。

自分たちにしかできないことが、比較材料に入っていない

提供する側は、自社と他社の違いをよく知っています。どこに時間をかけ、どのような基準で判断し、どこまで考えて提案しているか。似た名称のサービスであっても、実際に提供しているものは同じではないとわかっています。

一方、初めてサービスを検討する顧客には、その違いを見分けるための知識がありません。各社のWebサイトを見ても、豊富な経験、丁寧な対応、課題に合わせた提案といった似た表現が並び、何がどう違うのかまでは読み取れないことがあります。違いがわからなければ、顧客は金額、納期、実績の数など、目に見えて比較しやすいものを使って判断するしかありません。

なので、価格で比較されるという結果だけを見て、「顧客は安さを求めている」と考えるのは早計かもしれません。顧客が価格を選んだのではなく、価格以外に選べる理由を見つけられなかったとも考えることができます。

専門性を説明するほど、違いが見えなくなる

価値が伝わっていないと感じると、多くの企業は説明を増やそうとします。技術の特徴、対応できる範囲、仕事の工程、保有している知識などを詳しく載せ、自社がどれほど専門的に取り組んでいるかを伝えようとします。

もちろん、こうした情報は必要です。ただ、専門性の高いサービスほど、説明を増やすだけでは違いが伝わりにくくなることがあります。前提となる知識を持たない顧客には、専門用語や手法の違いを理解できず、どの会社も高度なことを言っているように見えてしまうからです。

提供する側が伝えたいのは、自社が持っている技術や方法の優位性です。しかし、顧客が知りたいのは、その違いが自分たちの問題にどう関係し、依頼したあとに何がどう変わるかです。ここがつながっていなければ、説明は読まれても、選ぶ理由にはなりません。

専門性が高いことと、その価値が伝わることは別の問題です。専門的であるほど、知識をそのまま見せるのではなく、顧客が理解できる形へ置き換える必要があります。

顧客は、サービスではなく「自分との関係」で価値を判断する

サービスの特徴は、それだけで顧客にとっての価値になるわけではありません。その特徴が自分たちの状況と結びつき、抱えている問題を解決するものだと理解されたときに、初めて価値として認識されます。

たとえば、「時間をかけてしっかりヒアリングします」という説明だけでは、他社との違いはわかりません。しかし、「社内では当たり前になっているため言葉にできていない強みを見つけ、顧客から選ばれる理由として整理する」と伝えれば、強みを説明できずに困っている企業は、自分たちとの関係を見いだせます。ヒアリングという方法ではなく、その先に起きる変化が見えたからです。

顧客が買おうとしているのは、専門知識や工程そのものではありません。それによって得られる変化です。ところが、提供する側は日々サービスに向き合っているため、方法や品質の違いに意識が向きやすく、顧客もその説明を読めば価値を理解できると考えてしまいます。

ここに、伝えたいことと知りたいことのズレが生まれます。自社の特徴を正確に説明していても、それが顧客にとってどのような意味を持つのかまでつながっていなければ、価値の説明は途中で止まっています。

足りないのは、説明の量ではなく理解するための順番

顧客は、Webサイトを見た時点ですでに自分の問題を整理できているとは限りません。「他社との違いが伝わらない」「問い合わせはあるが価格の話ばかりになる」と感じていても、なぜそうなっているのか、何を変えればよいのかまではわかっていないことがあります。

その段階で、いきなりサービスの特徴や自社の強みを説明しても、顧客は自分に必要なものとして受け取れません。まず、自分たちに起きていることを認識し、その原因を理解し、どのような考え方で解決できるかを知る。そのあとで初めて、解決できる会社やサービスを選べるようになります。

顧客が理解しやすいのは、提供側が話したい順番ではなく、顧客の認識が進んでいく順番です。現在感じている違和感から始まり、問題が起きている理由、そのままにした場合の影響、解決するための考え方、依頼先を判断する基準へと進む。この流れの中に自社の専門性を置くことで、初めて「この会社だから相談したい」という理由が生まれます。

Webサイトに情報が不足しているように見えても、本当に足りないのは情報量ではなく、情報と情報をつなぐ流れなのかもしれません。

専門性を「自分たちに必要な価値」へ変える

専門性を価値として伝えるためには、その説明を増やすだけでは十分ではありません。

顧客が感じている問題から始め、なぜその問題が起きているのか、解決するにはどのような考え方が必要なのかを伝えたうえで、自社のサービスへとつなげる必要があります。

Webサイトの中に必要な情報がそろっていても、それぞれが別々に置かれているだけでは、顧客は自分の問題との関係を理解できません。顧客が現在の状況を認識し、問題の原因を知り、解決の考え方に納得したうえで、サービスの必要性を理解していく。一つひとつの情報を、このような認識の変化に沿ってつないでいくことが重要です。

私たちは、この流れを組み立てることを「文脈設計」と呼んでいます。顧客を言葉で誘導したり、感情を刺激して申し込みを促したりするものではありません。顧客が何に困り、どこで判断できなくなり、何を理解すれば次に進めるのかを考え、それに合わせて情報を組み立てることです。

顧客が感じている問題を入口にして、まだ気づいていない原因を示し、解決するための考え方を渡す。

そのうえで、自社のサービスがどの部分を担えるのかを伝える。そこに実績や進め方などの根拠が加われば、専門性は単なる特徴ではなく、顧客が自分たちに必要な価値として判断できるものになります。

この文脈がないまま自社の強みだけを掲げても、「高い技術力」「豊富な経験」「柔軟な対応」といった抽象的な言葉に見えやすくなります。反対に、顧客が自分の問題を理解していく流れの中に置かれれば、一見すると地味な仕事の進め方や判断基準も、他社との重要な違いとして意味を持ちます。

自社のWebサイトを見直すときは、「何を載せているか」だけでなく、「顧客はどのような順番で、自分の問題とサービスの必要性を理解することになるか」という視点で見てみると、伝わっていない理由が見つかりやすくなります。

自社が伝えたいことの前に、顧客が理解するために必要なことが置かれているか。専門的な説明の先に、顧客にとっての変化が見えるか。この二つを確かめるだけでも、見直すべき場所は変わります。

価格以外の理由で選ばれるために

価格競争から抜け出すために必要なのは、できることを増やしたり、自社の価値を実際以上に大きく見せることではありません。

すでに持っている専門性や仕事への姿勢を、顧客が自分たちの状況と結びつけて理解できるようにすることです。

顧客が価格で比較するのは、価格を最も重視しているからではなく、それ以外の判断材料を持てていないからかもしれません。そう考えると、見直すべきなのは価格設定や営業の仕方だけではなく、顧客が自社を知り、必要性を理解し、相談を決めるまでの流れです。

その流れが整えば、問い合わせの時点で顧客の理解は以前より深まり、相談の内容も変わっていきます。価格や納期だけを確認するのではなく、自分たちの問題をどのように解決できるかを話すための問い合わせになります。

自分たちの仕事は、価格だけで比べられるものではない。その思いを顧客にも理解してもらうためには、違いを主張するだけでは足りません。顧客がその違いの意味に気づくまでの文脈をつくることが必要です。

私たちがサイト制作に取り入れている文脈設計の考え方はこちらのページからお読みいただけます。

文脈設計とは|訪問者の文脈と企業の文脈を重ねる設計の考え方

投稿者プロフィール

橋本敬(はしもとたかし)
橋本敬(はしもとたかし)
株式会社ブリッジ代表取締役。Web制作会社、広告会社系列制作会社などで、企業サイトの企画・制作・プロデュースに従事。現在は、企業やサービスの強みの整理、文脈・情報設計からWebサイト制作を支援。早稲田大学政治経済学部卒業。公益財団法人画像情報教育振興協会委員